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Nut.Daoインタビュー「働くこと」が彼に与えた大きな影響とは?【Artists and Creators Today in Thailand 連載001】

February 15, 2019

昨今、タイ人のアートが世界から注目され、海外でも活躍するアーティストやクリエイターが急増中。そんな今のタイを代表する若手アーティストを紹介すると共に、今彼らが何を思っているのかインタビューをしていきたいと思う。

 

初回は、27歳にして、すでに大手企業の案件にも多数携わってきたイラストレーター「Nut.Dao」。日本企業のイラストも手がけ、2018年末には初の個展も成功させた今大注目の若手クリエイターの1人だ。彼の働き方や考え方、そして、個展「Dilemma(ジレンマ)」について聞いてきた。

 

彼のスタイルや働き方は、働くことで形成されていった

 

 

─── まずは、仕事のことを聞かせてください。

 

僕は大学在学時にPractical Design Studio*(以下:Practical)でインターンシップをしていました。その縁で、卒業後は同スタジオに入社しました。現在も在籍していますが、個人でも仕事は受けています。

 

 

* Practical Design Studio(プラクティカル・デザイン・スタジオ)

 

グラフィック、インタラクティブ、プロダクト開発、パッケージなど、多岐にわたるデザインを手がける、タイを代表するデザイン事務所

VAIOのイメージイラスト

 

 旭化成のStart Bookのイラスト

 

 

─── Peachや東京メトロ、旭化成、トヨタなど、日本企業の仕事もされていますよね。これは個人で受注されている案件ですか? もしくはPracticalで受けている仕事なんでしょうか?

 

日本のVision Track*経由の仕事です。以前、PracticalがVision Trackと仕事をしたことがあり、そこからの紹介でした。Vision Trackでは『Nut.Dao + Practical』という名義でイラストレーターとして在籍しています。

 

* Vision Track(ヴィジョントラック)

イラストレーターを中心としたアーティストが在籍する日本、ロンドン、上海に拠点をおくエージェンシー

 

 

 

─── 日本とタイのクライアントでは仕事をするときに違いはありますか?

 

もちろん違います。日本のクライアントの場合は、Vision Trackを通して話すので、彼らがクライアントが何をしたいのかをヒアリングし、整理をしてくれます。スケジュール管理や進行、クライアントの要望など全てVision Trackがまとめてくれるので仕事としては、完成までがとてもスムーズです。

 

もちろん、大きな仕事であれば大変です。神戸関連の仕事で、ポスターを作ったことがありますが、1枚のポスターで神戸の街すべてを表現するというもので、シリアスでした。とても修正や調節が多かったです。クライアントが表現したいことと、これを見る人達がどう思うか、どう感じるかも加味して考えないといけませんでした。

 

タイのクライアントの場合は、僕が直接話すので時間がかかることもあります。僕の方からクライアントが何をしたいのか、何が欲しいのかを聞き出し、彼らの要望を僕がクリアにする必要があるので、仕事量は多くなります。そして、彼らは顔を合わせて会議をすることが好きですね。アイデアを一緒に出して、一緒に作り上げて行きます。

 

どちらにしても、仕事量が多いものもあれば、少ないのもあります。日本も同じです。簡単にすぎていく仕事もあれば、なかなか終わらない仕事もあります。

 PEACHのイラスト

 

タイにあるショッピングセンター”CENTRAL EMBASSY”

 

 

─── Practicalでの働き方を教えてください。

 

いろんな仕事をしていますが、コーポレートアイデンティティ(CI)の仕事が多く、アイデア出しから最後の仕上げまで携わります。エキシビションのコーディネーターのなどもあり、2015年に開催されたSHIBUKARU MATSURI goes to BANGKOK*では、日本人女性アーティストのコーディネートもしました。Practicalは大きくなく、5〜7人のメンバーしかないため、チームに出たり入ったり、全員がいろいろな仕事をしないといけません。

 

そして、僕は家(バンコク郊外)からトンローにあるPracticalのオフィスまで毎日3年間通っていたんですが、会社と相談して、この1年で仕事の仕方を変えてきました。必要がある場合のみ会社に行き、基本は家で作業をするようにしています。そして、僕のイラストと合う仕事を選んでくれるようにもなりました。

 

Vision Trackからの仕事もあります。Peachの仕事もその一つです。コーポレートイメージのイラストを作っているので、コーポレートイメージのカテゴリーが増えれば、それに合わせたイラストを制作する必要があるため、現在も続いています。

 

*東京を中心に活動する若手女子クリエイターによるカルチャーイベント「シブカル祭(まつり)」。東京・渋谷で開催されてきたイベントが2015年にバンコクで開催された

 

 自宅のオフィス

 

 

─── Practical以外で働きたいところはありますか? もしくは、してみたい仕事はありますか。

 

考えたこともなかったです(笑)。日本の会社だったら、無印良品の仕事をしてみたいです。無印良品のプロダクトが好きなので、もし、僕の絵が無印良品に飾っていたら、とても嬉しいですね。他に似たものがなく、使いやすく、機能重視でシンプルなデザインが好きです。

 

 

─── Practicalでの仕事は何が好きですか?

 

本当は、絵を描くことが好きです。働き出して3年目くらいになった時に、イラストに集中させてもらうよう、Practicalと相談しました。また、Practicalは外部の仕事を個人で受ける事も勧めてくれたので、僕は外部からの案件も個人で受注し、いろんな仕事を3〜4年程していました。ただ、とても忙しく、疲れたので、特に得意なイラストだけに集中することにしたんです。そう思うようになるまでは、どういった働き方があるのか、考え方があるのかに興味がありましたが、たくさんの仕事をすることで、自分の仕事をどうすれば良いのかわかるようになってきていると思います。

さらっと人の絵を描いてくれた

 

 

─── Peachの仕事以外でも人の絵を描いていますが、キャラクターが混乱したりしませんか。

 

仕事を始める前に、クライアントや代理店とどんなスタイルで絵を描くか相談をし、その際に詳しく話をしていれば、困ることはありません。問題があるときは、仕事が多すぎるときや打ち合わせの段階で問題をクリアにできていなかった時です。仕事が多すぎる時や十分に打ち合わせの時間をとれなかった仕事は、僕から確認しなければいけないことを忘れてしまったり、僕の考えとクライアントの考えが食い違ったりして、その結果、修正や調節が後から入り、余計に時間がかかってしまいますね。

 

僕はいろんな絵のスタイルを持っていますが、一つに絞った方がいいですかね。クライアントは迷わなくていいのかな? わからないですが(笑)

 

 

普通に見えるものも見方を変えると違って見える。身近なものが与えた彼への影響

 

’Inseparable’ブック用のイラスト

 

‘Good Love Luck Smile’ポスター用のイラスト

 

 

───続いて、あなた自身のことを教えてください。 絵に興味を持ち出したのはいつ頃ですか?

 

子供の頃です。絵を書くのが好きで、漫画や本などの絵を真似して同じように描いていました。特にナルトやワンピースが好きですが、漫画はなんでも好きでした。そして、大きくなって何を勉強するか選ぶ時に、数学や科学などよりも絵を描くほうがうまくできるだろうと考えました。もしくは、建築を勉強しようと思ったんですが、物理学を勉強しないといけないので、それも僕には大変だろうと思い、ビジュアルコミュニケーションデザインを勉強しました。

 

 

───好きなイラストレーターはいますか?

 

はい、Geoff McFetridge*です。普通のことを題材にし、「情報を削ってシンプルにする」彼の簡略化の手法が好きです。例えば、靴を床に置いた普通の状態を特別な状態に見えるように描いたりしていします。

 

*Geoff McFetridge(ジェフ・マクフェトリッジ)

カナダ出身のアートデザイナー、グラフィックデザイナー、イラストレーター

 

 

─── 尊敬しているアーティストはいますか?

 

Practicalで一緒に仕事をしている人たちです。それぞれにやり方が明確にあり、強い信念を持ち、お互いの考えを尊重しながら彼らと一緒に仕事をして、いろんなことを学んでいます。だから自分自身に一番近い人が今の僕に一番影響を与えてくれてます。

 

ここはグラフィックデザインスタジオで、ブランディングや、コーポレートアイデンティティなどの仕事がより重要です。僕は絵やイラストを描くのが好きで、僕が興味を持っている事と全く同じでというわけではありませんが、働き方、伝え方、売り方など全ての仕事をここで学んでいると思います。

 

たとえば、ロゴデザインですが、「作るロゴがどこで使われるか」や「サイズはどうするか」「他で使用する場合はどう変更して対応するか」……そして、それを「クライアントにあったシステムにどう落とし込むか」など、こういった考え方や働き方、方法をここで学びました。

グラフィックは絵を描くだけではないと思います。簡略化し、ディテールを必要最低限にし、それを見た人がわかるものをその絵の中で表現しないといけません。昔は漫画みたいな線で絵を描いて説明するような絵でしたが、今は端的に伝えられる絵になりました。

 

 笑顔で終始インタビューに答えてくれるNut君

 

 

─── タイ人であること、またはタイに住んでいることは、あなたの作品にどんな影響があると思いますか?

 

いろいろあります。僕はタイ人にとって普通に見えるものでも、見る方向を変えたら違って見えるものが好きです。例えば、Practical近くのトンローなんですが、仕事終わりの人たちがバイクタクシーを待っている行列を簡略化して描くと、違って見えたりするんです。他には、トンローの小道を歩いてるとオシッコの匂いがします。なぜだかはわかりませんが、小道でオシッコをする人もいます(笑)。混雑したBTSの乗客が並んでいる風景など、そういうところからイメージを膨らませて作品になっていってます。

トンローのバイクタクシーを待つ人の行列や混み合うBTSから着想を得た作品

 

 

─── 人の絵が描かれているものが大半ですが、これには何かコンセプトがあるのでしょうか?

 

僕もいつ頃から人の絵を描くのが好きになったのか、自分でよくわかっていません。絵を描くためや絵を見てもらうために、人を観察してスケッチしたり、たくさん人の絵を描いて集めているうちに、それが自分に染み込んで行ったんだと思います。昔も人の絵を描くのは好きでしたが、変わった顔を描いていました。それが段々と絵が変化していき、今の状態に近づいてきました。

 

 

─── 人以外で描きたいものはありますか?

 

実際は、クライアントが何をしたいかが重要だと思っています。でも、自分の作品では人がメインです。

 

 

─── アイデアが出てこない時はどうしてますか?

 

だいたい、アイデアはすぐに出てきます。でも、それをすぐに気に入るとは限りません。まずは、頭の中で考えて、ひとまずそれを頭の中に置いておきます。そして、いろんなものを読んだり見たりして、情報を頭の中に入れていき、置いていたアイデアと一緒に頭の中で混ぜたり、整理したりします。そこから出てきたアイデアが、その案件に関係するものと繋がったら、それは良いアイデアなんだと思います。考えてもアイデアが出てこない仕事はまだ何かが足りていない、もしくは考えが足りていないのだと思います。

 

今回のエキシビションの3Dの彫刻なんですが、エキシビションで展示できるように、いろんな方向から観てもらえるように絵を三次元で考えないといけませんでした。それはとても難しくなかなかアイデアがまとまりませんでした。自分だけで考えるのではなく、人の作品などを見たりして色々情報をインプットして考えましたね。

 

誰にでも起こる「Dilemma(ジレンマ)」だからこそ伝えたかったこと

 

 2018年末にGoose Life Spaceで開催された初のソロエキシビション「Dilemma」

 

 

─── 2018年末に開催された初のソロエキシビション「Dilemma」について聞かせてください。イベントのコンセプトはどこから着想を得ましたか?

 

3〜4年働いてきて思ったんです。今、僕はどこにいるんだろう……そして、どこに向かっているんだろう、何をしているんだろう、と。そう思った時、どうすべきかわからず、混乱してパニックになりました。僕はどちらの道に進むべきなのか、次に何をすべきか、あるいは将来どんな仕事をすべきなのか、と。

 

2〜3年前から個展をしたいという気持ちはありました。仕事があるのでなかなか準備ができませんでしたが、在宅で仕事ができるようになり、多くの時間を自分で管理することが可能になったので個展を開催することを決めたんです。開催を決めたものの、何が言いたいのか、何をしたいのか、僕自身に混乱、悩みが生じてきたんです。今のスタイルの絵を描くのか、または新しいスタイルで描くのか。その時は、何度も自分に問いかけました。そして、悩むことに疲れもしました。最初は、「Dilemma」というタイトルで個展を開くとは考えておらず、個展をどうするか考えていくうちに、自分の今に適した言葉だと思ったんです。

 

 個展「Dilemma」でのNut君

 

 

─── その気持ちから生まれた作品なんですね。

 

そうですね。個展開催を決めて作品を作っていても、悩んで自分自身と戦っていたので、それが作品に出てるのだと思います。仕事をしている時もそうでした。人は何かと戦って、何かを押し合って、何かを抱えています。その何かは物事を進めて行くうちに形を変えて行きます。その何かに辿り着いたり、掴んだりしても、また悩み、混乱する。なぜなら、そこには何もなく、その何かは自分の価値を上げるために自分自身で作り上げたものだから。その何かを理解しようと眺めてみたのですが、まだ結論を出さなくてもいいのかもしれないと、その時は思いました。

 

そして、全てが終わって、以前何を考えていたのかと振り返りました。そこには何もなく、そんなに考え込まなくていい、とにかくすればいいんだ、そうしたら自分の価値を感じられるんだと気づきました。何も問題ないんです。仕事でもプロジェクトでもどんなことでも、してしまえば、自信もつくし、必ず何かを得られる。とにかくする、これ以上のことはありません。何かをすることに理由をつける、探す必要なんてなく、やることに意味があるんだと思います。

 

僕は、何もせずにただいるだけというのは好きではなく、それに価値を見出せないんです。仕事が多すぎることも大変だけど、何もしないのも疲れます。ちょうどいいバランスを保つことが重要ですが、難しくもあります。ジレンマは、誰にでも起こります。いろんな状況でそれは起こったり、消えたり。どうしたらいいのか、どちらの道に進んだらいいのか悩んで、悪戦苦闘して考えさせられる。ジレンマとは、きっと普通のことだと思います。

 インタビュー時の自宅に飾られていた「Dilenma」の作品

 

 

─── 今はジレンマを感じることは何かありますか?

 

終わりました。気分いいですね。今はいろいろはっきりしているし、仕事がたくさんあるので、ジレンマで混乱してる暇はないですね。

 

 

─── 将来どんなことがしたいですか?

 

平面では伝えられないイメージを、彫刻など立体を作って表現したいなと思います。そして、チームを作って、スタジオを持ちたいですね。1人では3つの仕事を抱えるのが精一杯で、生活もいっぱいいっぱいになります。アシスタントや一緒にやってくれる人や管理ができる人がいれば、もっと他のプロジェクトも手がけられるようになると思います。

 

 

 

Photo by Yoko Sakamoto
 

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